小論文の頻出テーマ|インフォームド・コンセント。説明では足りない
医療系小論文の最頻出テーマ。制度の説明で終わる答案が大半ですが、採点者が見たいのは対立軸です。自己決定と最善利益がぶつかる場面から論じる方法を示します。
医療系の小論文で最も出題されるテーマのひとつです。そして、制度の説明で終わる答案が最も多いテーマでもあります。
インフォームド・コンセントとは、医師が患者に十分な説明を行い、患者が理解した上で同意することである。私はこれが重要だと考える。
これは正しい説明ですが、論述ではありません。誰も反対しないことを書いても、考えた証拠にならないからです。
押さえるべき対立軸
このテーマの本体は、2つの正しさがぶつかるところにあります。
| 立場 | 何を守ろうとするか |
|---|---|
| 自己決定の尊重 | 本人の人生は本人が決める |
| 最善の利益 | 専門家の判断で、その人にとって最も良い結果を |
どちらも正しい。だから、両者が衝突する場面でどう考えるかが問われます。答案では、この衝突が起きる具体的な場面をひとつ選んで論じると、一般論から抜け出せます。
衝突が起きる典型的な場面
1. 患者が医学的に不利な選択をするとき
治療を受ければ回復が見込めるのに、本人が拒否する。自己決定を尊重すれば命に関わり、介入すれば本人の意思を踏みにじる。
論じる際の観点は「その拒否は十分な理解の上でのものか」です。情報が足りない状態での拒否は自己決定と呼べるのか、という問いが立ちます。
2. 判断能力が十分でないとき
認知症のある高齢者、幼い子ども、意識のない救急患者。本人の意思を確認できない場面で、誰がどう決めるのか。
家族の意向は本人の意思と同じではありません。「家族が同意した」ことと「本人が望んだ」ことのあいだにある溝を書けると、答案の水準が上がります。
3. 説明が理解につながらないとき
説明は行われた。同意書にも署名がある。しかし本人は理解していない。形式としての同意と、実質としての理解のずれです。
医療者側の「説明した」と患者側の「分かった」が一致しない現象は、日常でも起きます。ここに気づいた経験があれば、それが具体例になります。
4. 説明する側に余裕がないとき
見落とされがちですが、書ければ差がつきます。
理解を確かめるには時間がかかります。しかし現場の時間と人員は限られています。「丁寧に説明すべきだ」という主張は、その時間をどこから出すのかに答えていません。
理想を述べるだけの答案と、条件の中で何を優先するかを述べる答案は、医療系でははっきり区別されます。負担の配分という視点は介護と高齢者ケアとも共通します。
5. 患者が「決めたくない」とき
自己決定の尊重は、決めることを本人に求めるという側面を持ちます。
しかし、判断の材料が専門的すぎるとき、あるいは体調が悪いとき、「先生にお任せします」という反応は自然に起こります。これを自己決定の放棄として扱ってよいのか。
「決めない」という選択も本人の意思のうちだ、と書けると論に厚みが出ます。この構造は科学技術と倫理の「選べるようになると、選ばないことに説明が要る」という軸と同じです。
未成年・子どもの場合
受験生自身に近い立場なので、書きやすく、かつ書ける人が少ない領域です。
本人と保護者の意向がずれたとき、どちらを取るのか。
- 保護者が同意しても、本人が納得していない場合
- 本人が理解していても、法的には保護者の同意が必要な場合
- 年齢が上がるにつれ、本人の意思をどこまで重く見るか
「子どもだから説明しない」ではなく、年齢に応じて説明の仕方を変えるという考え方に触れられると、教育系・小児領域を志望する場合には強い材料になります。
看護の立場から書く場合
医師が説明し、患者が同意する。この構図の中で、看護師はどこにいるのかという問いがあります。
- 説明の場に同席し、患者の理解を確かめる
- 説明のあと、患者が本当は何を分かっていないのかに最初に気づく立場にいる
- 患者が言えなかったことを、医師に橋渡しする
看護系志望なら、この「あいだに立つ役割」から書くと、他の受験生と重なりません。説明する側でも決める側でもない位置から見えるものがある、という視点です。
使える具体例の作り方
このテーマの具体例は、ニュースより身近な経験のほうが強く働きます。
- 家族が受けた説明の場に同席した経験
- 説明を受けたのに、後から「あれはどういう意味だったのか」と話していた場面
- 自分が病院で説明を受け、質問できなかった経験
「質問できなかった」経験は特に使えます。説明する側とされる側の非対称な関係を、実感として書けるからです。
よくある失敗
制度の説明で字数を使う
定義に150字使うと、論じる紙幅がなくなります。定義は必要最小限か、省いて構いません。
「医療者と患者の信頼関係が大切だ」で終える
反対する人がいない結論は、結論として機能しません。どういう条件のときに何を優先するのかまで踏み込みます。
患者の自己決定を無条件に称揚する
「患者の意思を最大限尊重すべきだ」と言い切ると、判断能力が不十分な場面をどう扱うのかという反論に答えられません。条件を付けた主張のほうが強いのがこのテーマの特徴です。
論じ方の一例
私は、自己決定の尊重は「理解の保障」とセットでなければ意味をなさないと考える。(立場) なぜなら、情報が非対称な関係では、説明を受けたことと理解したことが一致しないからだ。(理由) 祖母が手術の説明を受けた際、その場では頷いていたが、帰り道で「結局どちらがいいのか分からない」と話していた。(具体例) たしかに、すべてを理解させるまで待てば治療が遅れる場面もある。だが理解の確認を省いた同意は、責任の所在を患者に移すだけである。(反論への応答)
場面設定型で出た場合
「あなたは実習中の学生である。患者から〜と言われた。どうするか」という形で出ることも多いテーマです。
この場合は、意見を述べる形ではなく、判断の手順を書く形に切り替えてください。
- 確かめるべきことを確かめる(なぜそう言うのか)
- 何と何がぶつかっているかを名指しする
- 条件つきで判断する
- 自分の権限の範囲を書く——学生や新人なら、指導者に相談することも行動のうち
手順の詳細は「あなたならどうするか」の答え方にまとめました。同じテーマでも、問われ方で書く形が変わります。
面接で必ず聞かれること
医療系の入試では、このテーマを書くと面接で深掘りされます。あらかじめ答えを用意しておいてください。
- 「あなたが患者の立場なら、どこまで説明してほしいですか」
- 「では、家族の立場だったらどうですか」
- 「本人が知りたくないと言った場合はどうしますか」
3つ目が最も答えにくく、最もよく聞かれます。知る権利の裏には知らないでいる権利がある、という点まで考えておくと答えられます。
答案と面接の接続は小論文で書いたことは面接で聞かれるへ。
まとめ
- 制度の説明ではなく、自己決定と最善の利益の衝突を論じる
- 衝突が起きる場面を1つ選ぶ(不利な選択・判断能力・理解のずれ・時間の制約・決めたくない場合)
- 「丁寧に説明すべきだ」は、その時間をどこから出すのかに答えていない
- 「決めない」という選択も本人の意思のうち
- 未成年では、本人と保護者の意向がずれたときをどう扱うか
- 看護系なら「あいだに立つ役割」から書くと他と重ならない
- 具体例はニュースより、説明を受ける側になった自分の経験
- 「信頼関係が大切」で終えない。条件を付けて主張する
- 場面設定型で出たら、意見ではなく判断の手順を書く
形式別の解き方・練習方法を含む全体像は、小論文の書き方 完全ガイドにまとめています。