テーマ型小論文の書き方。一行の問いから800字を作る手順
「地域医療について論じなさい」のように、課題文がなくテーマだけが与えられる形式の解き方。書くことが浮かばない状態から構成を組み立てる手順を示します。
テーマ型は、課題文型よりも難しい形式です。
課題文型には読むものがありますが、テーマ型は一行だけ与えられて、あとは自分で全部作る必要があるからです。
地域医療について、あなたの考えを800字以内で述べなさい。
この一行から800字を作るには、手順が要ります。思いついたことを書き始めると、必ず途中で止まります。
「テーマ型も出る」と要項に書いてある例。大阪大学 外国語学部の総合型選抜は、120分の小論文を「文章読解論述型のほか、必要に応じてテーマ型など他の形式でも出題します」と明記しています。課題文型とテーマ型の両方を回しておく必要があります。
テーマ型がそのまま合否を決める例。一橋大学の学校推薦型選抜は、要項が小論文を「大きなテーマについて論じさせる」と定義したうえで、総合750点のうち250〜300点を配点しています。
テーマが要項に出ている例。浦和大学 現代社会学科の総合型選抜は、事前提出の800字小論文のテーマを4本とも要項に載せています。SNS利用の制限、オーバーツーリズム、少子高齢化とデジタル技術。どれも一行の問いなので、テーマ型の練習材料としてそのまま使えます。
手順1:テーマを問いに変える(3分)
テーマのままでは書けません。「〜について」を「〜か」に変換します。
| テーマ | 問いへの変換 |
|---|---|
| 地域医療について | 地域医療の不足は、医師の数を増やせば解決するか |
| 少子高齢化について | 高齢化社会の負担は、誰がどう分担すべきか |
| コミュニケーションについて | 良い聞き手とは、どのような聞き方をする人か |
変換のコツは、答えが2つ以上ありうる形にすることです。「地域医療は重要か」では、答えが1つしかないので論じられません。
変換に失敗する3つの型
| 失敗した問い | 何が問題か | 直した形 |
|---|---|---|
| 地域医療は重要か | 答えが1つしかない | 医師を増やせば解決するか |
| 地域医療の現状はどうなっているか | 説明で終わる | 現状のどこを先に変えるべきか |
| 地域医療をどう改善すべきか | 広すぎて焦点が定まらない | 医師の配置と移動手段の、どちらを先に整えるべきか |
3つ目が最も多い失敗です。「どうすべきか」は一見よい問いに見えますが、範囲が広すぎると答案が総花的になります。選択肢を2つ挙げて、どちらかを選ぶ形にすると、一気に書きやすくなります。
テーマが抽象的すぎるとき
「自由について」「豊かさとは何か」「働くこととは」。一語だけ与えられる出題があります。
このときは、いきなり問いに変えようとしないでください。先に場面を1つ決めます。
豊かさとは → どの場面の話にするか → 「進路を選ぶとき」に限定する → 問い:進路の選択肢が多いことは、豊かさなのか
抽象語は、場面を決めた瞬間に論じられるようになります。そして場面を限定することは減点になりません。むしろ「なぜその場面を選んだか」を一文添えれば、それ自体が論の一部になります。
豊かさは多義的だが、ここでは進路の選択という場面に絞って考えたい。
手順2:反対の立場を先に考える(5分)
自分の意見を決める前に、反対意見を1つ書き出してください。
これをやらずに書くと、独りよがりな文章になります。反対意見が見えている文章は、それだけで読み手に「考えている」と伝わります。
私は医師の偏在は待遇改善で解決すべきだと考える。 ↑ この立場を取るなら、「待遇を上げても地方に残らない」という反論を先に想定しておく。
手順3:具体例を1つだけ決める(5分)
テーマ型で最も差がつくのが具体例です。そして最も失敗しやすいのもここです。
やってはいけない例の出し方
たとえば、医師不足や看護師の離職、高齢化などが挙げられる。
これは具体例ではなく、単語の列挙です。読み手には何も伝わりません。
良い例の出し方
私の住む町には診療所が一つしかない。祖母は月に一度そこに通うが、予約が取れず、朝7時から並ぶことがある。
具体例は1つに絞って掘り下げるのが原則です。3つ挙げて全部浅いより、1つ深いほうが評価されます。そして自分の見聞きした範囲の例のほうが、統計より強く働きます。
手順4:800字の設計図を書く(5分)
構成はこの型で足ります。
| 段落 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 第1段落 | 問いの提示+自分の立場 | 120字 |
| 第2段落 | なぜその立場か(理由) | 220字 |
| 第3段落 | 具体例 | 250字 |
| 第4段落 | 反論への応答 | 130字 |
| 第5段落 | 結論 | 80字 |
第4段落を最初から予定に入れておくのがコツです。ここを書ける答案は多くありません。
字数が変わったら
| 字数 | 段落数 | 調整 |
|---|---|---|
| 400字 | 2〜3 | 反論を1文に圧縮。結論は独立させない |
| 600字 | 3〜4 | 反論を1〜2文。理由と具体例のどちらかを薄く |
| 800字 | 4〜5 | 標準形(上の表) |
| 1200字 | 5〜6 | 具体例を2つ、または反論の検討を厚く |
テーマ型で字数が多い場合、具体例を増やすより反論の検討を厚くするほうが安全です。手持ちの経験は限られているので、2つ目の具体例は浅くなりがちだからです。
手順5:書く(30分)
設計図があれば、800字は30分で書けます。書けないときは、たいてい手順3の具体例が決まっていません。
知らないテーマが出たとき
テーマ型で最も恐れられている状況ですが、知識がなくても書けます。小論文は知識を問う試験ではないからです。
順に試してください。
1. テーマを、自分が知っている場面に引き寄せる
「地域包括ケア」を知らなくても、祖父母が誰にどう支えられているかは知っています。そこから書き始めて構いません。
2. 一般的な対立軸を当てはめる
どの分野にも共通する軸があります。
- 自由と安全
- 効率と公平
- 個人の選択と全体への影響
- 短期の成果と長期の維持
- 誰が負担し、誰が恩恵を受けるか
どれか1つが必ず当てはまります。分野別の対立軸は完全ガイドの頻出テーマ一覧からたどれます。
3. 知らないことは、知らないまま扱う
この分野の制度について私は詳しく知らないが、〜という場面で起きていることから考えると、
知ったかぶりをするより、はるかに安全です。うろ覚えの用語や数字を書くほうが減点は大きくなります。
学部に引きつける
テーマ型は、誰が書いても同じ社会評論になりやすい形式です。志望学部を問われた意味を出すために、次のどちらかを入れてください。
- 具体例をその分野に近いところから取る(医療系なら通院や介護の場面、教育系なら学校の場面)
- 最後の一文で、自分がその分野に関わる立場から見ていることを示す
支える側の負担を数として把握する仕組みがなければ、現場で何が起きているかは制度に届かない。
「なりたい」と書く必要はありません。その分野の目で見ていることが伝われば十分です。
テーマ型でよくある失敗
定義から始めてしまう
地域医療とは、地域住民の健康を支える医療のことである。
辞書的な定義に80字を使うのはもったいない使い方です。読み手はその言葉を知っています。定義が必要なのは、あなたが独自の意味で使うときだけです。
「〜すべきである」を連発する
主張が強いのは良いのですが、根拠なく「べき」を並べると、感想文になります。1つの主張に対して、理由と具体例を必ずセットで置いてください。
学部と関係のない一般論で終える
医療系学部でのテーマ型は、あなたがその分野をどう見ているかを測っています。誰が書いても同じ社会評論になっていたら、志望学部を問われた意味がありません。
最後の一文で、自分がその分野に関わる立場から書いていることを示してください。
答案例:手順どおりに書くとこうなる
設問「あなたにとって『働く』とは何か。600字以内で述べなさい」——テーマ型の定番です。手順1〜5をそのまま通した答案例を載せます。
先に、よくある冒頭。
私にとって働くとは、お金を稼ぐだけでなく、社会に貢献し、自分自身も成長できる大切なものである。
貢献と成長は、この設問で受験生の大半が書きます。そして「だけでなく〜も」で全部を取りにいった結果、立場がありません。
手順どおりに作り直します。構成メモは次の15分でできる形です。
| 手順 | メモ |
|---|---|
| 1 問いに変える | 働くとは、収入の手段か、役割の引き受けか |
| 2 反対の立場 | まず生活。収入を軽く見る労働観は現実的でない |
| 3 具体例1つ | 祖父。無報酬で水路の見回りを続けている |
| 4 設計図 | 立場→譲歩→具体例→再主張→結び |
書いた答案です。
働くとは、社会の中で自分の役割を引き受けることだと考える。
たしかに、働く第一の目的は収入だという見方はもっともだ。生活が成り立たなければ、やりがいを語る余裕はない。収入を軽んじた労働観は現実的ではない。
しかし、収入だけでは説明のつかない働き方が現にある。私の祖父は七十歳を過ぎた今も、頼まれれば集落の水路の見回りを続けている。報酬はほとんどない。それでも祖父が続けるのは、「自分がやらなければ困る人がいる」からだ。祖父にとって働くことは、収入の手段である以上に、地域の中で引き受けた役割そのものになっている。
収入と役割は対立しない。ただ、収入は働き始める理由にはなっても、働き続ける理由にはなりにくい。役割として引き受けたとき、労働は他人との関係の中に置かれ、簡単には手放せないものに変わる。
だから私は、働くとは役割を引き受けることだと考える。職業を選ぶときも、収入の多さだけでなく、そこで自分が何を引き受けるのかを基準にしたい。(約560字)
この答案が評価される理由は3つです。
- 立場が1つ。「収入か役割か」という対立を自分で立て、役割の側に立った(手順1・2)
- 譲歩が先にある。収入の現実を認めてから反論した。両論併記ではなく、通過している
- 具体例が1つで深い。祖父の話だけに絞り、誰が・何を・なぜまで書いた(手順3)
なお、この祖父の例は説明のために書き起こした架空のものです。真似るべきは例の中身ではなく、例を1つに絞って掘るという判断のほうです。あなたの600字には、あなたにしか書けない90字を入れてください。
まとめ
- テーマを「〜か」の問いに変える。答えが2つ以上ありうる形にする
- 「どう改善すべきか」は広すぎる。選択肢を2つ挙げて選ぶ形にする
- 抽象的なテーマは、先に場面を1つ決める。限定は減点にならない
- 自分の意見より先に、反対意見を書き出す
- 具体例は1つに絞って掘る。単語の列挙は具体例ではない
- 設計図に13分使う。書くのは30分で足りる
- 知らないテーマは、知っている場面に引き寄せ、一般的な対立軸を当てる
- 知らないことは知らないまま扱う。うろ覚えの用語より安全
- 具体例か最後の一文で、志望分野の目で見ていることを示す
- 定義から始めない。「べき」を根拠なく並べない
形式別の解き方・練習方法を含む全体像は、小論文の書き方 完全ガイドにまとめています。