探究のアンケートとインタビュー。結果は配る前に決まっている
回収してから使えないと気づくアンケートには共通の原因があります。質問文の5つの罠、集計を先に設計する方法、インタビューの深掘りの技術と倫理まで実例で解説します。
探究の相談で、毎年必ず受けるものがあります。
アンケートは取ったんですけど、どうまとめればいいか分からなくて。
回収した回答を見せてもらうと、原因はいつも同じです。まとめられないのではなく、まとめられないアンケートを配ってしまったのです。
アンケートの質は、配る前に決まります。この記事は、その「配る前」を扱います。
大前提:アンケートは仮説を確かめる道具
「とりあえずアンケートを取ってみる」は、ほぼ失敗します。
アンケートは、確かめたい仮説があって初めて設計できる道具です。仮説がないまま質問を並べると、「なんとなく聞きたいこと」が10問並び、回収後にどの数字も使えないことに気づきます。
順番はこうです。
- 問いと仮説を立てる
- 文献と統計で、すでに分かっていることを調べる
- それでも分からない部分だけを、アンケートで聞く
すでに全国調査がある質問は、同じ聞き方を借りてください。自分の結果と全国の数字を直接比較できるようになり、それだけで考察が1段深くなります。
先に「結果の表」を描く
設計の技術として、これが最も効きます。
質問を書き始める前に、回収後に作りたい集計表を、数字が空欄のまま先に描いてください。
| 読書する | 読書しない | |
|---|---|---|
| 通学30分未満 | ?人 | ?人 |
| 通学30分以上 | ?人 | ?人 |
この表が描ければ、聞くべき質問は「読書をするか」と「通学時間」の2つだと確定します。逆に、この表が描けない質問は、聞いても使えません。
「面白そうだから聞いておく」質問は、すべて削ってください。質問数が減るほど回収率は上がり、分析は楽になります。目安は、属性を除いて10問以内です。
質問文の5つの罠
回答が歪む原因は、質問文にあります。代表的な5つを、直し方つきで並べます。
罠1:誘導
環境のためにレジ袋の有料化は必要だと思いませんか?
「環境のために」が答えを誘導しています。理由や価値を質問文に入れない。
レジ袋の有料化について、どう思いますか。
罠2:二重質問(1問に2つ聞く)
朝食を毎日食べて、睡眠を十分に取っていますか?
朝食は食べるが睡眠は不足している人が答えられません。「〜て、〜」が入った質問は必ず2問に分けます。
罠3:曖昧な言葉
読書をよくしますか?
「よく」の基準が人によって違うので、回収した数字が意味を持ちません。頻度・回数・時間に置き換えます。
この1か月で、マンガ・雑誌・教科書を除く本を何冊読みましたか。(0冊/1冊/2〜3冊/4冊以上)
期間を区切る(この1か月で)、定義を添える(マンガを除く)。この2つで回答の精度は大きく変わります。
罠4:選択肢に穴がある
通学手段は?(電車/バス/自転車)
徒歩の人が答えられません。選択肢はすべての人がどれか1つに入るように作り、迷ったら「その他(自由記述)」を最後に置きます。
罠5:答えにくいことを直接聞く
あなたの家庭の年収は?
答えたくない質問は、無回答か嘘を生みます。本当に必要かをまず疑い、必要なら幅で聞く・任意にする・匿名を徹底するなどの配慮をします。
回答形式の使い分け
| 形式 | 向いていること | 注意 |
|---|---|---|
| 単一選択 | 事実(頻度・手段・有無) | 選択肢の穴に注意 |
| 複数選択 | 理由・経験(あてはまるもの全部) | 集計は%が100を超える |
| 4件法(そう思う〜思わない) | 意識・態度 | 真ん中を置くと集中するので偶数が無難 |
| 自由記述 | 想定外の答えを拾う | 最大2問まで。集計が重い |
自由記述を並べたアンケートは、回収後に必ず後悔します。数字で取れるものは数字で取り、自由記述は「その理由を教えてください」の1〜2箇所に絞るのが定石です。
誰に、何人配るか
「配りやすい人」は母集団ではない
自分のクラスと部活のグループLINEに配ったアンケートは、「高校生の意見」ではなく「あなたの友人の意見」です。
これはアンケートが無意味だという話ではありません。結果を語るときに、主語を正しくすればよいのです。「本校2年生40名では」と書けば正確で、「高校生は」と書けば過大です。この主語の制御は、報告書の信頼性を大きく左右します。
偏りを減らしたいなら、配る経路を2つ以上にしてください。自分のクラスに加えて、担任経由で別のクラスにも依頼する。それだけで「仲間内の偏り」はかなり薄まります。
人数の目安
統計的に厳密な人数計算は、高校生の探究では必要ありません。目安だけ持ってください。
- 30人未満:%で語ると誤解を生む。「40人中12人」と実数で書く
- 50人前後:クロス集計(2つの質問の掛け合わせ)が成立し始める
- 100人以上:%で語ってよい規模。学年単位で取れれば理想
大事なのは人数そのものより、何人に配って何人が答えたか(回収率)を記録しておくことです。回収率が低い調査は「答えたい人だけが答えた」偏りを持ちます。それも含めて報告書に正直に書けば、むしろ評価されます。
実施の実務
- フォームで取るなら、冒頭に「目的・匿名であること・成績に関係ないこと」を明記する
- 回答期間は1週間を目安に。長くしても回収は伸びません。締切前日に1回だけ再アナウンス
- 必ず自分で1回答えてみる。所要時間が5分を超えるなら削る
- 学校内で配る場合は、先に担任か顧問に一言通す。トラブルの9割はここで防げます
インタビュー:数字にならないものを取りに行く
アンケートが「広く浅く」なら、インタビューは「狭く深く」です。なぜ・どのようにを知りたいときは、インタビューのほうが向いています。
依頼の仕方とマナーは一次情報の取り方の依頼メールの型を使ってください。ここでは当日の技術を書きます。
質問リストは「半分」だけ作る
質問を10個用意して順に消化すると、尋問になります。用意するのは柱の質問3〜4個だけにして、残りの時間は相手の答えを掘ります。
柱の質問は、はい・いいえで終わらない形で作ります。
| 閉じた質問 | 開いた質問 |
|---|---|
| 商店街は大変ですか? | この10年で、いちばん変わったことは何ですか? |
| 対策はしていますか? | これまで試したことと、その結果を教えてください |
深掘りは3語でできる
相手の答えに対して、この3つを返すだけで話は深くなります。
- 「たとえば?」 — 抽象的な話を具体に落とす
- 「それはなぜですか?」 — 理由に降りる
- 「他には?」 — 1つ目の答えの奥にある2つ目を出す
インタビューの価値は、用意した質問の答えではなく、深掘りの先で出てきた想定外の話にあります。予定通りに終わったインタビューは、たいてい収穫が薄い。
記録の作法
- 録音は必ず事前に許可を取る(「メモが追いつかないので録音してもよいですか」)
- 終了後24時間以内に要点を書き起こす。記憶は1日で薄れます
- 報告書に発言を載せるときは、名前の出し方(実名か「商店主Aさん」か)を本人に確認する
倫理:人に協力してもらうということ
アンケートもインタビューも、他人の時間と情報をもらう行為です。最低限のルールを守ってください。
- 目的を偽らない。「授業の課題で」と言って集めたデータを別目的に使わない
- 答えたくない質問は飛ばせるようにする
- 個人が特定される形で結果を公表しない(「3年A組でスマホを持っていない1人」は特定されます)
- 集めたデータを第三者に渡さない
これは説教ではなく実利の話でもあります。面接で「調査で気をつけたことは?」と聞かれたとき、ここが答えられる受験生は強い。
結果の書き方の最低ライン
集計後、報告書に書くときのルールを3つだけ。
- %には必ず母数を添える——「60%(回答者45人中27人)」
- 自由記述は「多かった声」と「少数だが重要な声」を分けて引用する
- 予想と違った数字ほど大きく扱う。都合の悪い結果を隠すと、考察が書けなくなります
数字の解釈でやりがちな失敗(相関と因果の混同など)は資料型小論文の書き方と同じ話なので、まとめる前に一読を勧めます。全体の構成はまとめ方へ、仮説が外れていた場合は立て直し方へ進んでください。
まとめ
- アンケートは仮説を確かめる道具。「とりあえず」で配らない
- 質問を書く前に、作りたい集計表を先に描く
- 誘導・二重質問・曖昧語・選択肢の穴・答えにくさ。5つの罠を潰す
- 配りやすい人=母集団ではない。主語を正しく書けば小規模でも価値がある
- インタビューは柱3問+深掘り3語(たとえば?なぜ?他には?)
- 協力者への倫理は、面接で問われる実力でもある