探究の問いの立て方。「調べれば分かること」は問いではない
探究の成否はテーマではなく問いの形で決まります。良い問いの4条件、問いを磨く5つの操作、ダメな問い6パターンの直し方まで、ビフォーアフターの実例つきで解説します。
探究の相談を受けるとき、最初に見るのはテーマではありません。問いの形です。
テーマが平凡でも、問いが良ければ探究は進みます。テーマが立派でも、問いが悪ければ何も生まれません。探究の成否は、始まる前の問いの一文でほぼ決まっています。
この記事は、テーマを見つける段階を終えた人向けです。見つけたテーマを、調べられる問いに磨き上げる工程を扱います。
テーマ・問い・仮説は別物
まず用語を分けます。この3つを混同していると、探究は「調べ学習」で止まります。
| 用語 | 正体 | 例 |
|---|---|---|
| テーマ | 関心のある領域。方向だけがある | 商店街の衰退 |
| 問い | 答えを出したい具体的な疑問文 | なぜ隣町の商店街は人が減っていないのか |
| 仮説 | 問いに対する、いまの自分の仮の答え | イベントではなく、日常の買い物客を逃していないからではないか |
テーマは問いではありません。「商店街の衰退について調べる」と言っている段階では、何をすればいいか自分でも分かっていないはずです。やることが決まらないのは、意欲の問題ではなく、まだ問いがないからです。
そして問いには、仮説をセットにします。仮の答えを立てると、「何を確かめればいいか」が自動的に決まるからです。仮説のない問いは、調べる範囲が無限に広がります。
良い問いの4条件
添削の現場で使っている基準です。4つすべてを満たす必要があります。
条件1:調べれば答えに近づける(検証可能)
「幸せとは何か」は重要な問いですが、高校生の探究の問いとしては機能しません。アンケートでも実験でも文献でも、答えに近づく手段がないからです。
問いを立てたら、「これは何をすれば確かめられるか」を自分に聞いてください。手段が1つも思い浮かばない問いは、哲学の問いであって探究の問いではありません。
条件2:範囲が絞れている
「日本の少子化はなぜ進むのか」——これは国の審議会が何年も議論している問いです。高校生の1年間で扱える大きさではありません。
大きい問いは、悪い問いではなく「まだ切っていない問い」です。切り方は後述します。
条件3:自分の手が届く
問いの答えに近づく手段が、高校生の自分に実行可能であること。
「宇宙飛行士の心理状態はどう変化するか」は検証可能な問いですが、あなたは宇宙飛行士に会えません。一方「部活の大会前、部員の睡眠時間はどう変化するか」なら、明日から測れます。
手が届く範囲に問いを引き寄せることは、妥協ではなく設計です。
条件4:答えがすでに出ていない
検索して3分で答えが出る問いは、探究になりません。「日本の高齢化率は何%か」は問いではなく、調べ物です。
ただし注意してください。先行研究があること自体は問題ではありません。同じ問いでも、対象を変えれば(全国→自分の市)、条件を変えれば(大人→高校生)、それは新しい問いです。既存の答えを自分の足元で確かめ直すのは、立派な探究です。
問いを磨く5つの操作
大きくてぼんやりした問いを、動く問いに変える操作です。順番に適用してください。
操作1:対象を固有名詞にする
| ビフォー | アフター |
|---|---|
| 商店街はなぜ衰退するのか | 駅前の◯◯商店街は、なぜこの10年で店舗が減ったのか |
| 高校生はなぜ本を読まないのか | 自分の高校の生徒は、なぜ図書室を使わないのか |
「一般に◯◯は」という問いは、誰のことでもないので調べられません。固有名詞が入った瞬間、調べる場所が決まります。
操作2:比較を入れる
探究で最も強力な操作です。1つのものを見ていても、原因は見えません。違いのあるものを並べたとき、初めて原因の候補が浮かびます。
| ビフォー | アフター |
|---|---|
| ◯◯商店街はなぜ衰退したのか | ◯◯商店街と△△商店街で、何が違ったのか |
| なぜ朝読書は効果があるのか | 朝読書をしている学校としていない学校で、読書量は違うのか |
比較対象が見つかった探究は、半分成功しています。
操作3:「なぜ」を「何が・どの程度・どのように」に置き換える
「なぜ」は最終的に答えたい問いですが、直接調べることができません。調べられるのは、その手前の事実です。
| なぜ型(調べられない) | 置き換え(調べられる) |
|---|---|
| なぜ図書室の利用者が少ないのか | 利用者はどの学年・どの時間帯に偏っているか。非利用者は何が理由だと答えるか |
| なぜこの地域は災害への備えが進まないのか | 備蓄をしている家庭はどの程度あるか。している家庭と、していない家庭で何が違うか |
「なぜ」を心に置いたまま、手を動かす問いは「何が・どの程度」で立てる。この二段構えが探究の実際の形です。
操作4:測り方を先に決める
問いの中の曖昧な言葉を、測れる言葉に置き換えます。
「商店街の衰退」の「衰退」とは何のことか。店舗数か、歩行者数か、売上か、空き店舗率か。どれを測るかで、調べ方も結論も変わります。
◯◯商店街の空き店舗率は、10年前と比べてどう変化し、それは△△商店街とどの程度違うのか。
ここまで来ると、問いがそのまま作業指示になっています。
操作5:仮説を書いてから、確かめ方を決める
最後に、いまの自分の予想を1文で書きます。
仮説:◯◯商店街の衰退は、大型店の進出そのものより、駐車場がないことが効いているのではないか。
仮説があると、聞くべきことが決まります(買い物客に「何で来たか」を聞けばよい)。仮説は当てるためのものではなく、調べる範囲を絞るための道具です。外れたときの扱いはうまくいかないときの立て直しで書きます。
ダメな問い6パターンと直し方
添削でよく見る形です。自分の問いと照合してください。
1. 大きすぎる問い
地球温暖化を止めるにはどうすればよいか
国連の問いです。操作1と2で切ります。「自分の学校の電力使用量は、何をすると何%減るのか」なら手が届きます。
2. 賛否を聞く問い
安楽死は認められるべきか
価値観の対立は、調べても決着しません。探究の問いにするなら事実の問いに変換します。「安楽死を法制化した国では、制度の利用者数と適用条件はどう変化してきたか」——これは調べられます。
3. 答えが自明な問い
睡眠不足は集中力に影響するか
します。誰もが知っている結論に向かう問いは、調べる前から終わっています。一段細かくします。「何時間を切ると影響が出るのか」「科目によって影響の出方は違うのか」なら、答えを知らないはずです。
4. 検索3分の問い
日本で一番リサイクル率が高い自治体はどこか
調べ物です。ただし入口としては優秀です。「なぜその自治体は高いのか。隣の自治体と何が違うのか」と続ければ、探究の問いになります。
5. 測れない言葉が入った問い
地域の絆を深めるにはどうすればよいか
「絆」は測れません。操作4で置き換えます。挨拶の回数か、自治会の加入率か、祭りの参加人数か。何をもって「絆」とするかを決めた時点で、探究の半分が終わっています。
6. 他人の問い
SDGsについて調べなさいと言われたので
やらされの問いは、考察の段階で必ず止まります。大きな枠は与えられたものでも、その中で引っかかる一点は自分で選んでください。見つけ方はテーマが決まらない人への「違和感」の方法が使えます。
問いの1文テンプレート
磨き終えた問いは、この形に収まります。
(固有名詞の対象)は、(比較対象)と比べて、(測れる指標)がどの程度/どのように違うのか。私は(仮説)と考え、(方法)で確かめる。
すべて埋まらなくても構いませんが、「対象」「指標」「方法」の3つが埋まらない問いは、まだ調べ始められません。
問いは途中で変わってよい
最後に、いちばん誤解されていることを書きます。
問いは、探究の途中で変えて構いません。むしろ、調べているうちに問いが変わるのは、探究が進んでいる証拠です。
ただし1つだけ条件があります。変えた記録を残すこと。
当初は◯◯を問いにしていたが、△△が分かったため、問いを□□に更新した。
この1行が、報告書でも志望理由書でも、あなたの思考の証拠になります。大学が見たいのは、まっすぐ進んだ探究ではなく、考えながら進路を修正した跡です。
出発前のチェックリスト
調べ始める前に、問いを7つの項目で確認してください。
- 疑問文1文で書けているか(「〜について」で終わっていないか)
- 固有名詞が入っているか
- 比較対象があるか(なければ探せないか)
- 測る指標が決まっているか
- 確かめる手段が、自分に実行可能か
- 検索3分で答えが出ないか
- 仮説を1文で書いたか
すべて通ったら、次は調べる段階です。いきなりアンケートを作らず、まず先行研究と統計の調べ方から始めてください。順番を間違えると、ここで磨いた問いが台無しになります。
まとめ
- テーマ・問い・仮説は別物。探究を動かすのは問いと仮説のセット
- 良い問いの4条件:検証できる・絞れている・手が届く・答えが出ていない
- 5つの操作:固有名詞・比較・「何が」への変換・測り方・仮説
- 賛否の問いは事実の問いに変換する
- 問いは途中で変えてよい。ただし変えた記録を残す