小論文の具体例の作り方。体験を「論拠」に変える4つの手順
具体例が思いつかない、書いても浅いと言われる。原因は体験を書いていないことではなく、体験を論拠に変換していないことです。変換の手順を具体的に示します。
小論文で最も差がつくのが具体例です。そして最も多い相談が「思いつかない」「書いても浅いと言われる」の2つです。
この2つは同じ原因から起きています。具体例を「知識」から探しているからです。
具体例は思い出すものではなく、作るもの
多くの受験生は、テーマを見てから「何かいい事例はないか」と記憶を検索します。この方法だと、ニュースで見た有名な事例しか出てきません。そして有名な事例は、他の受験生も書きます。
正しい順番は逆です。自分の主張を先に決め、その主張を支える経験を後から探す。
主張:説明を受けたことと理解したことは別である ↓ この主張を支える場面は何か 経験:祖母が手術の説明の場で頷いていたが、帰り道で「結局どちらがいいのか分からない」と言っていた
この順番なら、どんなテーマでも自分の生活から材料が出てきます。記憶の検索ではなく、主張からの逆引きです。
体験を論拠に変える4つの手順
体験をそのまま書いても、それは感想文です。論拠に変えるには4段階の加工が要ります。
手順1:場面を1つに絞り、時間と場所を特定する
- ✕ 病院ではよく説明が分かりにくいことがある
- ○ 祖母の手術前の説明の場に、私も同席した
「よくある」「一般に」で書かれた体験は体験ではありません。いつ・どこで・誰がを特定した瞬間に、それはあなただけの材料になります。
手順2:観察した事実だけを書く
- ✕ 祖母は不安そうだった
- ○ 祖母は説明の間、一度も質問しなかった
「不安そうだった」はあなたの解釈です。解釈から書くと、読み手は検証できません。外から見えた事実を書けば、読み手も同じ観察を追体験できます。
手順3:そこから言えることを1段階だけ上げる
事実をそのまま置いても、主張とつながりません。事実から主張へ、橋を1本かけます。
事実:一度も質問しなかった。しかし帰り道で「結局どちらがいいのか」と言った 橋:その場で質問できない関係が、説明の場には存在する 主張:説明を受けたことと理解したことは別である
この橋の部分が、答案で最も評価される1文です。多くの答案は事実を書いた次の行でいきなり主張に飛ぶため、論証が抜け落ちます。
手順4:一般化しすぎない
- ✕ このように、日本の医療現場では患者の理解が軽視されている
- ○ 少なくとも、説明の場に質問しにくい空気が生まれることはある
1つの事例から全体を断定すると、「その1例で言えるのか」という反論を招きます。「少なくとも〜はある」「〜という場合がある」と限定するほうが、論としては強くなります。
具体例の3つの引き出し
主張から逆引きするとき、探す場所は3つです。
| 引き出し | 中身 | 強み |
|---|---|---|
| 自分の経験 | 見た・やった・言われた | 他人が書けない |
| 身近な観察 | 家族・地域・学校で見たこと | 生活の実感がある |
| 学んだ知識 | 授業・本・ニュース | 客観性がある |
優先順位は上からです。知識だけの具体例は、同じ本を読んだ受験生と同じ答案になります。逆に、経験だけで知識がないと視野が狭く見えます。経験を主にして、知識を補助に使うのが最も強い構成です。
「特別な経験がない」場合
これが最も多い悩みですが、必要なのは特別さではありません。
- 部活で後輩に教えたときに、伝わらなかった経験
- アルバイトで同じ質問を何度も受けた経験
- 家族と意見が合わなかった経験
- 便利なはずの道具を使って、かえって不便になった経験
日常の中の「うまくいかなかったこと」は、ほぼすべてのテーマの論拠になります。うまくいった話より、うまくいかなかった話のほうが、そこに構造があるからです。
字数の目安
800字の答案なら、具体例は200〜250字。1つの場面を書くのにこれだけあれば十分です。
配分の内訳は、場面の描写に100字、そこから言えることに100字。描写だけで250字使うと、論拠になりません。事実と、そこから言えることを、必ずセットで置きます。
まとめ
- 具体例は記憶から探すのではなく、主張から逆引きする
- 場面を1つに絞り、時間と場所を特定する
- 解釈ではなく、外から見えた事実を書く
- 事実と主張のあいだに「橋」を1文かける。ここが最も評価される
- 1例から全体を断定しない。「少なくとも〜はある」に留める
- 特別な経験は要らない。うまくいかなかった日常が使える
形式別の解き方・練習方法を含む全体像は、小論文の書き方 完全ガイドにまとめています。